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執筆者の写真湯本裕二

身体の歴史と操法の時間

操法をする時は主に背骨を観察してその方の身体を理解していくのですが、やはりそれだけではその方の状態のすべてはわからなかったりするんですね。


そこで操法前後に話を聞いていくことが多いのですが、その時の話は概ねその方の自己認識しているところの身体の不調と個人史の結び目なんです。

その物語と、その方の背骨の状態とを、私の頭の中で統合すると、辻褄が合うのですがやはり驚愕します。


普通の方々は自分のそれまでの個人史が背骨に書き込まれているとは思っておりません。

自分で背骨を触れませんから。

一応プロでしたら内観して自分の背骨の状態はわからないといけないのですが、自分で自分の背中を観るのは難しいです。


野口晴哉先生の操法は3分位だったとされています。

岡島瑞徳先生は15分位と聞いています。

多くの方々を観なくてはならなかったのと、経験と実力からその短時間で身体を変えられたんですね。

今現在で現役の整体指導者でも、操法の時間が短い方も長い方もいらっしゃいますが、通常は時間を短くするのが憧れなのでしょう。

それだけ一点を観ているし一点を押さえられる、ということなわけです。


私は操法は50分前後としていますが、わりと長い方だと思います。

技術者としての腕の問題もありますが、時間を長くすると観える景色が違ってくるということもあります。


野口先生逝去から40年以上たち、現在時代の変化も早く、情報量も圧倒的に増しています。

端的に、他人がどんな人生を歩んで来たのか、推測し難い時代です。

背骨が曲がっていたり、硬結が何処かにあったとして、そのことの意味がとても分かり難いのです。

それらの連環の仕方というか。


ライフスタイルも多様。

物語も多様。

人種も宗教も多様。

時間も多様。

感情も多様。

言葉と音と映像との結び付け方も様々です。


野口先生が一人を観る時間を短くしたくてしていたのか、それは私にはわかりません。

一日に何百人も来たら単純に一人に一時間をかけるわけにはいきませんから。


一人にそれなりの時間をかけると徐々にその人の人間がわかってきます。

50分位操法の時間をかけるのは半分は自分のためです。

人間が知りたいんですね。

深い処に入れると、思考の速度が速まり、時間が遅く感じます。

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