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執筆者の写真湯本裕二

朝倉文夫の『墓守』

朝倉文夫の『墓守』という彫刻があるんですが、15年くらい前に、何処かの美術館で観たんですね。

 

その時は別の作家が目当てで、それを見終えた後に時間があったので、常設の展示を観て回っていたんですね。

 

その時に観たのです。

周りには自分以外に人がおらず、薄暗い部屋でじっと相対して観ていたんです。

 

そして、じっと墓守のおじいさんの顔を観ていたら、私の耳の後ろから、人がざわざわ喋る声が聞こえたんです。

 

でも周りには誰もいないんですよ。

 

耳鳴りかな氣のせいかな、と思って、また墓守のおじいさんを観ると、やっぱり、耳の後ろから人の話している声が聴こえるんです。

 

私は怖くなってその部屋を出ました。

 

何か吸い込まれるような感じで。

 

それだけの話なんですけど、これはオカルト的な心霊現象というよりは、朝倉文夫が墓守のおじいさんを取り巻いていた何らかの磁場=地場というかを含めた形象を彫刻していたのではないかと思うんです。

 

鑑賞者が彫刻に感応した時に、こちらの身体に墓守のおじいさんを取り巻いていた感覚が再現されたのではないでしょうか。

 

絵画ではこういう経験はありません。

 

彫刻はやっぱり念がこもりやすい氣がします。

 

彫刻は目だけを使うのではないのですね。

 

鑑賞者に対して、作家は騙す位置にいる、という観方もありますが、この場合は騙しているというより、たんに形の無いものに形を与えたのです。

 

無形の永続しないものに、有限ですが形を与えたのです。

 

ちなみに私はモダニズムって嘘だと思ってます。

 

とくに年代の作家の作ったものは、現代人には理解しがたい念がこめられているのを素直に感じます。

 

またこういったことを私は心霊現象や心理現象と捉えたくありません。

 

たんなる身体現象として感覚した、と考えます。

 

整体指導者となっていらっしゃる不特定の方々の身体に触れて観ている現在、こういった重要な経験をよく思い出すんです。

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